令和5年の初任給アップの話題が増えていますね。
先駆けて発表したユニクロは大卒を25万5千円から4万5千円引き上げ。
入社1~2年目で新人店長になると今までのの29万円から39万円の大幅賃上げ。
他にもゲーム業界のセガや任天堂も追随し、大手メガバンク・ホンダや全日空、JR東日本、NTTグループ主要会社、大和ハウス工業、ニコン、製粉大手の昭和産業、アフラック生命保険など初任給引き上げの動きは各業界に広がっているようですね。
理由として真っ先に思い浮かべるのは近年の物価上昇に対応する国際的な競争力を養うのと、何よりも人材確保がメインだと思われます。
特に、人材確保は少子化もあり企業にとっては急務です。
より良い人材を自社に取り込みたいのはどこの会社でも同じですから当たり前と言えば当たり前ですが、見方を変えれば初任給が上がればOKではありません。
今は就職氷河期と違い、母数が少ないので売り手(新卒)市場です。
つまり学生が企業を選ぶ時代ってわけです。
そうなると問題は新卒の方が初任給で企業を選ぶとなれば一社独占や一定企業の寡占状態に陥ってしまい、囲い込まれたら他の中小企業は太刀打ち出来ません。
日本は一部大企業と他の中小企業で言えば圧倒的に中小企業が多いわけですから、社会全体で見たときに果たして大企業だけが人材を確保するのが良いかと問われたらどうでしょうか?
他にも、新卒で初任給が良い会社に入れたけど、それはつまり大企業なわけで周囲の新卒者だって同等に優秀ですから社内競争は相当です。
氷河期では辞めても次なんて見つからない時代でしたから意地でも残ろうと働く必要がありましたが、売り手市場の今は辞めても次が探せます。
特に大企業に入れるだけの能力があれば転職にもそう困らないでしょう。
こうなると単純に初任給をアップしたからと言ってもメリットだけじゃないのは明らかですね。
会社にしてもせっかく良い人材を確保して給料まで上げたのに辞められたら損失につながります。
それに加えて、じゃあ令和4年入社の社員の給料はどうするのか?問題もあります。
1年入社が違うだけで、能力やスキルが違うのに給料が今年の社員のほうが良いなんて逆転現象も起こしてしまうリスクをどうするのでしょうか。
社会人の1年目と2年目ってたった1年ですが、されど1年です。
社会人として仕事として経験を得た1年はやはり圧倒的に違いますからね。
「初任給」だけで判断してはいけない!
初任給アップに釣られてそこだけしか見ないのは、はっきり言ってリサーチ不足です。
大切なのはきちんとしたキャリアアップと給料のベースアップの階段がどうなっているか?を調べなければなりません。
簡単に言えば出世に伴う給料体系の変化や年数による変化、福利厚生もそうですし職場制度などもしっかりと考える必要があるわけです。
10年働いて役職も上がったのに手当が多少増えただけでベースはほとんど上がらず、初任給からそこまで増えていないなんてケースはザラにあります。
仮に賃金で比較するならば初任給だけではなく、年齢別のモデルや役職による比較をして欲しいところです。
会社の立場で見ると?
初任給アップは一見すると朗報のように見えますが、社会全体の視点で見れば必ずしもメリットだけではないのですが、それを決めるのはそれぞれの企業なのでとやかく言う権利はありません。
あくまでこうした見方もありますよ。というだけですが、実際に新入社員として選ぶ企業を探すときはしっかりと生涯賃金だったりキャリアップやベースアップなども見るべきなのは間違いありません。
そうしないと損をするのは自分なので。
これは就職活動する学生さんにとって大事な視点なのでお伝えしましたが、じゃあ逆に会社側からの視点で見るとどうでしょう?
初任給アップの裏側の意図ですね。
表向きというか、実際問題として人材確保や物価上昇に対応する点や国際競争力の観点から言えばまぁその通りです。
これに異論はありません。
ただ、会社にとってみれば初任給を上げるのって相当リスキーなんです。
・せっかく苦労して確保した人材が1年や2年で辞めてしまったら?
・既存社員からの不平不満をどうするの?
・やっと人並みに育てたと思った矢先に引き抜かれたら?
・社内制度をいくら整えても個人の意思で退職する場合は?
この問題はある程度の管理責任者にならないと分かりづらい部分だとは思いますが、会社で何も知らない新入社員を一から育てるのって凄い時間とエネルギーを使っています。
上司も先輩も教える時間や育てる為のアレコレ。時に叱り時にフォローし時に一緒に仕事をしたり謝ったり。
会社だって研修や講習、実務訓練など様々なリソースを使っています。
にも関わらず給料を上げた上で辞められたら損失は大きいですし、そう考えると初任給アップは会社からしたら紛れもないリスクでしかありません。
こんなのは会社に勤めれば誰でも分かる話しなので、大手企業が理解してないはずはありません。
つまり、それだけ人材の確保が難しくなっている証左だったりするわけです。
リスクを負ってでも人材を確保したい。
これが裏側というか企業の本音なんですよね。
私も社会に出て20年以上ですが、これは経験してますからよく分かります。
ある数年間、毎月毎年退職者が出て気づけば同年代が数人になっていたり、とある事情により3年間新入社員が採用できず年代の空白期間がありました。
それから10年経った時に浮き上がった問題は、
「新入社員が入っても教える側の圧倒的人数不足」
です。
採用ができなかった3年を明けて急に採用したとして、教える側がいないんです。
いても退職者が続出していた点も重なって圧倒的に足りない。
こんな憂き目に遭いました。
とにかく会社は常に社員の流動化っていうのは目を光らせる必要がありますから、引き止める創意工夫が必要なわけですね。
辞めた穴はそう簡単には埋まりません。だからこそなり振り構わず初任給を上げる事がリスクだと承知の上でアップしなければならない。
そんな止むを得ない事情が見え隠れする初任給アップのお話しでした。